“考日家”ブリンクマン氏による
「あるオランダ人の『昭和ジャパン』論」

今から4年前、ひとりのオランダ人が、昭和の日本の社会や風物、 人情などを、この国での自らの半生と絡めて生き生きと描いた本が話題を呼んだ 。その著『まがたま模様の落書き』(新風舎刊)の著者、ハンス・ ブリンクマン氏は、昭和25年、18歳のとき母国のナショナル・ハンデルス銀行行員として来日。戦後の経済復興・成長に伴走し、 昭和49年に欧州に戻るまで、人生の最も多感な時期を日本で過ごした。その後も折々に来日し、 昭和から平成へと移り変わる社会を目の当たりにしてきた同氏が、 このほどランダムハウス講談社から2作目となる『 あるオランダ人の「昭和ジャパン」論 − 不確かな平成から見た確かな昭和』(溝口広美訳、 本体1900円)を上梓した。昨年秋に出版した『Showa Japan;the Post− War Golden Age and Its Troubled Legacy』の日本語版である。昭和の日本に今も限りない愛着をもつ著者だが、 本書で展開されるのは単なるノスタルジー文化論ではなく、 現在の状況を客観的に把握したうえで歴史を検証し、昭和とは何だったのか、日本はこれから何をめざし、 どこへ行こうとしているのかへの、真摯な問いかけだ。本書を書くにあたって著者は、120人以上に様ざまなテーマについて取材やインタビューを行ったという。自らの豊富な体験に、そこで得たことを交えて導かれる考察は、鋭く、時にシニカルだが温かく、日本と日本人への共感に満ちている。「彼は『親日家』『知日家』ではなく、日本人以上に真面目に日本のことを考えている『考日家』」だと日本語版訳者の溝口広美氏。それだけに、「社会の秩序が保たれ、モノがあふれ、 豊かで安全なのに何かが欠けている」「日本は古びた昭和モデルの代替を探し求めているにちがいない。 しかし〜とりあえずは窓を開け新鮮な空気をいれるほうが賢明だ」といった言葉の数々は説得力に富む。折しも政権交代を選択し、大きな歴史の転換期を迎えた日本。本書は我われに、現在にいたる歩みを客観的に振り返り、 これから向かう道を考える手がかりのひとつを与えてくれる。


編集担当・野村伸一氏より一言「今年は家康により、 日蘭貿易が開始されて400年という記念の年(日本オランダ年)です。まさにその貿易航路に沿って日本に赴任したブリンクマンさんは、4半世紀にわたり戦後の日本をまるごと体験した「昭和人」でもあります。このユニークなスタンスに歴史の因縁めいたものさえ感じます。日本人の気づかない『昭和論』です」

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