変容する社会15:日本の新しい夜明け?』

8月30日に行われた第45回総選挙で民主党が圧勝してから、まだ6週間しか経っていない。衆議院480議席における民主党の獲得議席は308、自民党は わずか119で、選挙前の民主115に対する自民300を考えると、民主党の大勝利と呼べよう。

勝因はなんだったのか。民主党の掲げた「政権政策マニフェスト2009」か、 それとも、鳩山党首のカリスマ的存在感か。あの自民党が、これほど無惨に惨敗を喫するとは、誰も予想できなかった。

だが、勝因は民主党のマニフェストにあったとはいえない、というのが大方の意 見だ。確かに民主党のマニフェストは、税金の無駄遣いをやめる、「子ども手当」を支給する、アジア外交の強化、対等な日米関係の構築をはじめ、その内容は多岐におよんでいる。しかし、果たして実現可能かというのが大多数の反応だった。

党首のカリスマ性が決定打だったともいえまい。物腰の柔らかな鳩山由紀夫氏の祖父は内閣総理大臣、父は外務大臣をつとめた。鳩山氏は東京大学とスタンフォ ード大学で学び、工学博士号を有している。1996年、民主党を結党、翌年党幹事長に就任、2009年5月党代表に選ばれた。信条として「友愛」を掲げ、 選挙戦でも「友愛外交」を強調した。彼は、真面目だが面白味に欠けるのではないか。

一体、民主党の勝因はどこにあったのだろうか。結局、今回の選挙は民主党の支持ではなく、自民党への不支持の表明だったというのが識者たちの見方である。 有権者は腐敗した自民党政治に嫌気をさしたのだ。年金問題、指導力に欠ける首 相、自民党の政策に対する多くの不満が一気に爆発したのである。だから、民主 党に投票したわけだ。識者も一般市民も民主党が一夜にして日本の政治を変える とは思っていない。2〜3年後は、自民党が再び政権を握るだろうといわれている。有権者は一服しながら、民主党の舵取りと、自民党の臥薪嘗胆の姿を傍観し ているわけだ。

それでもとにかく、鳩山政権は発足し、さまざまな批判や不安や疑念をものともせず、マニフェストで掲げた課題に着手している。

  • 与党議員が100人以上、大臣・副大臣・政務官等として政府の中に入り、中央省庁の政策立案・決定を実質的に担う

  • 40万ちかくの在日韓国・朝鮮人も含めた永住外国人の地方参政権検討委員会の設置

  • 2020年までに温室ガス25パーセント削減という首相の国連演説

  • 欧州連合(EU)をモデルにした「東アジア共同体」構想。鳩山首相は、さらに、日本の戦争犯罪を明らかにすること、国立追悼施設を設立することを表明

  • 税金のムダ遣いをなくすため、2つの大規模ダム工事を中止し、48のダム工事を検討中

  • 記者クラブの開放(しかし、すでに「公約破り」という批判の声があがっている)

  • 高速道路を原則無料化

  • 長妻厚生労働大臣が「消えた5000万件の年金」に取り組むため、約2000億円の予算を要求

あくまでも、政府が現在取り組んでいる段階にすぎないのではあるが、政権発足後わずか2か月にも満たないにもかかわらず、これだけの課題をこなしているのは見事といえよう。

これでいよいよ、日本の社会も根本的に変わるのか?

天下りを廃止すれば、政治腐敗を防ぐことができ、社会全体にとっては良いこと だ。例えば、そうした資金を個人に還元することで、内需を活性化させ、輸出依 存型の経済は緩和されるにちがいない。温室ガス削減のために、石油や原子力以外のエネルギー開発には弾みがつくだろう。

だが、派遣労働者問題や高い失業率については、まだ具体的な政策が明らかにされていない。健康保険をはじめとするセーフティネット(つまり生活保護制度) のない彼等は、ホームレスになるしかない。高速道路の原則無料化についても、 温室ガス削減との兼ね合いをどうするのか。

しかし、民主党政権のマニフェストは、日本の社会や経済構造を大きく変えてゆくにちがいない。

さらに、政権交代が実現したことは、有権者に投票の力を実感させる良い機会だったのかもしれない。民主党は真摯に自ら打ち出したマニフェストに取り組んで いる。そうした政党を、日本の国民が選んだのだ。これまでノンポリ有権者だった大多数が、積極的に政治に関心を抱き行動を起こすことで、よりよい政府は実 現可能であるということに気づいた。今後、オープンな討論会やメディア、教育 分野をはじめとするさまざまな分野に、なんらかの長期的影響が期待できるかもしれない。

それこそ、日本社会の根本的な変化の兆しといえるだろう。

(平成21年10月21日 溝口広美訳)


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